祇園点景

鍾馗

いらかの上でにらみを利かす小屋根の鍾馗さん

驟雨の去ったあと、薄日に光る銀鼠色の京のいらかの波は、ほんとうに美しい。
京瓦は、七宝や象嵌、数珠や組紐、和菓子や宇治茶などと同様に、京都の特産品の一つ。伏見の深草には、豊臣秀吉が伏見城の瓦を焼かせるために集めた瓦師たちが住んでいた瓦町という町もあります。

瓦は土が生命。かつて東山一帯に京瓦製造業者が集まっていたのは、良質の粘土が出たからですが、最盛期には百軒はあったという瓦屋さんは、残念ながらいまはわずか。

京都の街を歩いていると、京瓦の連なる小屋根の上に、ウムとばかり踏ん張っている瓦人形の鍾馗さんをよく眼にします。
もともと鍾馗は、玄宗皇帝の夢の中に出てきて、皇帝の魔を祓い、病を癒したという人で、のちに神となったもの。わが国でも五月人形でおなじみです。

『街談文々集要』には、三条の薬屋の大屋根に据えられた鬼瓦の毒気にあたった向かいの女房が、小屋根に鍾馗を飾ったところ、あれ不思議、病気は全快…という話がのっています。
小身ながら、魔除けに病い封じ、お家繁栄とさまざまの願いを託されて、京の屋根の鍾馗は頼りになる存在です。

鍾馗

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