をけら火
八坂さんのご神火 をけら火で正月迎え
京のお正月は「をけら詣り」からはじまります。正しくは、大晦日の夜半から正月の未明にかけての神事なので、除夜の鐘が鳴りはじめるころになると、人々は「をけら火」をいただくため、八坂神社へと急ぎます。
をけら火とは、28日の寅の刻(午前5時)、前夜から参籠潔斎した権宮司が桧の火鑽杵、火鑽臼で浄火を鑽(き)り出し「をけら灯籠」に移したご神火のことです。
その火を31日に釣灯籠のなかの「白朮木」に移しします。そのご神火を、吉兆縄ともいう火縄に受けて持ち帰り、雑煮を炊き、元旦を祝うのが、京の古くからの習わしとなっています。
白朮(オケラ)は多年草の薬草で、漢方では健胃薬に用い、正月の屠蘇散にもこれが入っています。邪気を払い疫病にも効力があるので、節分の夜には白朮を焚いて邪気退散を願ったそうです。
むかしは、参詣人が過ぎてゆく年の憂さばらしに雑言をいいあったので、一名「悪口祭」ともいわれていたそうです。「祭りの老若男女左右に立ち別れ、悪口の様々いひがちに、それはそれは腹抱える事なり」と、井原西鶴は『世間胸算用』に生き生きと描写しています。思う存分に悪口を言い合い、清々しい気持で新年を迎えたのでしょう。
悪口祭りは消えても、かわらず「をけら火」はくるくると家路にむかいます。