ユリカモメ
京の冬の風物詩ユリカモメこと、都鳥
京の街に時雨が降り、雪がひらひら舞うころになると、鴨川の流れに漂う、白い鳥を見かけるようになります。ユリカモメ(百合鴎)です。
はるか千島列島の向こう、ロシアのカムチャツカ半島のあたりから10月のなかばになると飛来する渡り鳥で都鳥ともいい、京の冬の風物詩として親しまれています。
ユリカモメこと都鳥の名がはじめて登場するのは『万葉集』。以後古歌にもしばしば姿を見せますが、有名になったのは、「むかし男ありけり」ではじまる『伊勢物語』第九段に詠まれた「名にし負はばいざこととはん都鳥わが思ふ人はありやなしやと」…というロマンチックな一首からでしょう。
伊勢物語は、1人の男のさまざまな恋の遍歴を百二十五段にわたって綴った平安時代の歌物語で、作者は不詳。主人公の「男」は、恋の達人かつ美男として伝説化されていた在原業平といわれています。
この都鳥の歌は、高貴な女人との恋がもとで都を追われて東下りした男が、隅田川のほとりに立ち、都鳥とよばれる白い鳥を見ながら、そぞろ都をしのんだもの。平安の女人の化身かと思えば、いとしさも湧いてくるようです。